コピ・ルアクとういう高級豆

珈琲豆にも他のあらゆる製品と同じような「高級品」という選択肢がある。

それも大量に出回っている一般的な商品に比べて、何倍もの値段がする代物だ。

その代表格といえるのが、インドネシアのスマトラ島やバリ島、スラウェシ島、ジャワ島で生産される珈琲豆「コピ・ルアク」。

 ニューヨークの住宅街ウェストビレッジにある専門のカフェでは、この豆で淹れたコーヒー1杯になんと30ドル(3000円以上)という値段が付いている。ちなみに、近くのダンキンドーナツのコーヒーは1杯1・19ドル(約30円)だ。

 コピ・ルアクが特別な理由は、その独特な製法にある。農園で栽培されているコーヒーノキの果実が野生のマレージャコウネコに食べられ、彼らの消化管に12日間「滞在」。その後、消化されずにほぼそのまま排泄された種子を糞の中から回収し、洗浄・加工することで独特の風味を持った豆が作られる。ジャコウネコは美味しい実を選んで食べる。

動物の排泄物から取りだした珈琲豆だけに、誰もが喜んで飲みたがるわけではない。それでも1kg当たり770ドル(約8万円)以上の高値が付くのは、言うまでもなく希少価値が高いからだ。

 だが需要が高まった今では、年間500トン近くが「人工的」に生産されているという。自然に生産される量の1000倍だ。ジャコウネコを捕獲して檻(おり)に入れ、無理やり珈琲の実を食べさせて生産しているのだ。そのエサとなる珈琲の実だって、いい豆かどうかもわからない。

 

 コピ・ルアクの人気の高まりが招いたこの現状に、専門家たちは懸念を抱いている。

90年代前半、最初にコピ・ルアクに注目したコーヒートレーダーのアントニー・ワイルドは、「本物」のコピ・ルアクを認証するキャンペーンを立ち上げた。

 

「最初にコピ・ルアクに魅力を感じたのは、かわいくてフワフワした動物がコーヒー農園にやって来て果実を食べ、立ち去った後に面白い風味の豆を残していく、というところだった」と彼は言う。「少し気持ち悪かったが、とっぴで魅力的だと思った。だが今では、高級珈琲豆の生産のために虐待行為が横行している」

 

 本来のコピ・ルアクは、野生のジャコウネコが自分で完熟した美味しそうな実をみつけて食べるので、品質のいい珈琲豆(種)が排出される。

 ただ、この檻に入れられたジャコウネコは安い品質の珈琲の実を食べさせられていたりもする。本来は雑食性なので、珈琲の実だけで満足に成長できる動物ではない。肉だって食べなきゃならないのだ。しかし、珈琲の実しか与えられなければそれを食べるしかないだろう。虐待である。

 

 ジャコウネコは種によっては絶滅危惧種になっているものもいる。ビントロングなどがそれだ。

 

 

 世界的な「高級品嗜好」の高まりは、人里離れたジャングルに住む小さな動物たちにまで影響を及ぼしている。